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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)615号 判決

被告人

佐倉光一

主文

原判決を破毀する。

被告人を禁錮参月に処する。

但し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

原審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

依つて記録に基き審按するに

(一)原審挙示の各証拠に依れば被告人は原審認定の三回の会合に出席し、其席上多数の会合者に対し鈴鹿市と白子町と分離することは白子町にとつて有利である旨を発言したことは之を認めるに充分である。惟ふに昭和二十二年勅令第一号第十五條第一項の政治上の活動とは國家たると地方団体たることを問はず其組織又は運営について自己の意見を表明するの謂であつてその手段方法等に至つては何等限定されてゐないから自己の抱懷する抽象的見解のみならず他人の意見、又は歴史的事実等を述べ、以て暗に他人をして自己の意見に同調せしめんとする意途を表明する場合をも包含するものと解釈せねばならぬ。故に白子町の住民である被告人が原審判示の三集会に於て同町を鈴鹿市より分離せしめることが白子町にとつて有利であると説明した所爲は明に前記法條に抵触するものであつて、其土地の住民たると否とに依つて区別すべき理由は毫も存在しないから此点に関する論旨は理由がない。

(二)また違法の認識は犯罪構成の要件でないことは刑法第三十八條第三項によつて明であるから被告人が仮令檢察庁の回答により本件の処爲を爲すことが適法なものであると確信して居たとしても事実に就て認識を有して居た以上は依然として犯罪を構成するものであつてこれを目して同條第一項の罪を犯す意なき所爲と解することが出來ないことは既に学説判例の一致するところであるから此点の論旨も亦理由が無い。

(三)然しながら被告人は前記の如く檢察庁の回答により「白子町の住民である被告人が同町を鈴鹿市より分離する運動を爲すことが適法な行爲である」と信じて居たことは原審第二回公判調書(記録八十五丁以下)中証人後藤修起の供述記載並に被告人に対する檢事供述調書(記録一〇九丁)、同第二回供述調書(記録百十七丁)同第三回供述調書(記録百二十三丁裏)の各記載により之を認めるに充分である。依之看之被告人の本件処爲は刑法第三十八條第三項但書の軽減理由があるものであつて原審が被告人に対し禁錮三月の実刑を科したのは量刑重きに失するものと謂ふべく此点に於て本件控訴は理由がある。

仍て刑事訴訟法第百三百九十七條に則り原判決を破毀する。

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